クー・テラス
 
 
 
クー・テラスは北海道北部の豊富町に建つ、サロベツ福祉会が提供する生活介護サービスのための建築である。ここでは常に介護を必要とする障害者に対し、昼間の入浴・排せつ・食事の介護等を行うとともに、創作的活動や生産活動の場が求められた。また、サロベツ福祉会では利用者に居心地がよく、四季や自然の変化を感じながら安心して活動できる空間を提供したいと考えていた。
利用者の心と身体の状態は様々であり、日々の活動には広さや開放感の異なった多様な居場所が必要である。そこで、居場所となる「4つの箱」が「3つのテラス」を挟んで並ぶ連棟型の空間構成とした。箱にはテラスに面して大きな開口を設け、相互の見守りに配慮している。箱からは近隣の様子がテラスを介して垣間見えるようにし、開放的でありながらも落ち着いた室内環境を生んでいる。また、4つの箱を繋ぐ長い廊下は、利用者の移動しやすさへの配慮とともに、緊急時に備えたものである。
地域の気候風土に適した性能や工法とするよう北方型住宅の技術や基準を遵守している。その上で、夏場のオーバーヒートを防ぐため南面の開口部をできるだけ抑え、反射光や天空光により明るさを確保し、安定した温熱環境と優しい光環境となるよう配慮した。また、スプリンクラーの自主設置、わかりやすい避難経路の確保など防災面の検討をおこなった上で在来木造工法を採用した。これにより地域の職人が主役となって工事が行え、地域からの愛着・経済効果、スムーズな維持管理が実現できると考えた。
就労支援の場としての「サロベツ・マイハート」(2010)、生活の場「グループホームドリームスポット2」(2012)、就労の場「ベーカリー夢工房」(2012)に引き続き、介護の場「クー・テラス」(2019)が整備されたことで、サロベツ福祉会が理念に掲げる障害者が安心して暮らし続けられる地域の実現に向け、さらに一歩前進したと感じている。